時計塔の鬼



なんて、幸せな日常。

なんて、幸せな時間。

なんて、幸せな温もり。

おそらく、これ以上の幸せなんてないだろう。

リビングで戯れるみんなを眺めながら、そう思う。



「夕枝」


「はい、お水」


「サンキュ」



お水の入ったコップを手渡すと、少し赤い顔をした秀は、それをゴクゴクと飲み干した。

その際に喉仏が上下して、秀が男だってことを実感する。



私の幸せは、彼を在るからこそのモノ。

もう、彼は時計塔に囚われない。

“囚”という名前の鬼は、もう居ない。



けれど、時計塔に込められた切なる想い……。

秀の話に出てきた、ゲンという時代の向こうに生きていた鬼の『生きてほしい』という願いは、消えはしない。

私たちは、今を生きていく。



いつか、誰かがまた時計塔に囚われたとしても、きっとそこから解放してくれる誰かが現われる。

だから、絶望なんてしないでほしい。



秀に私が出会ったように、奇跡というものは、実は身近で起こるものなのだから。