時計塔の鬼



「それでやっと今日、その二つの制約が果たせた、ってコト」



最後にニッコリ笑顔を添えて、俺は話をそう締めくくった。

大事なことは、これで全部言ったはずだ。



「いや~、長かったんだぜ? なんせ十一年。誘惑やらなんやらがそりゃーまーすごいのなんのって。俺すごくねぇ?」


「って、ちょっと待ってよ! じゃあ、なんで夕枝に会いに来るまでのこの一ヶ月は何だったの?!」


「うっ、それは、だな……。非常に情けないんだが、部長命令の地方出張で、帰るに帰れなかったんだ。ったく、あの古狸め……」



脳裏に思い浮かんだ、やり手の上司に、思わず悪態を吐く。

そうでもしなきゃ、やってられっかよ。

いつの間にか運ばれてきていた料理に舌鼓を打ちながら、頭の中で、タヌキ上司
を殴っておいた。



「ねぇ、シュウ……」


「ん、何だ?」


「今……恋人とかって、居るの?」



顔を紅葉色に染めながら、夕枝はなんとも言いづらそうにそう口を開いた。

が……俺はそれどころじゃなかった。

なんせ、夕枝にとっては一ヶ月でも、俺にとっては十一年ぶりだ。

こんな可愛くて仕方のなくなる反応も、十一年ぶり。

理性が危ない。

酒を飲んでなくて本当によかった。



「シュウ……?」


「心配すんなって。俺はお前一筋。疑うか?」


「……疑わない。シュウだもの」



……ホッとしたようにわずかに酒の匂いのする息を吐いた夕枝。

衝動的に肩を抱いたまでは良かったが、前の二人の存在を思い出して、そこで自制する。

二人がいなかったらどうなっていたことか、考えると恐ろしくてならない。