時計塔の鬼



「全く、もう……」


「歩美、おツボが」


「さささ採点続けよーっと」



ぎくしゃくとしながら、歩美は再び解答用紙との戦いに戻って行った。

その様子を見て思わず溜め息を吐く。

歩美のこんな所は、本当に相変わらずだ。

そうひとりごちて、私も採点の山へと向かうことにした。






最近は、夏が近いためか、日が長くなった。

放課後の採点作業に一区切りをつけ、私は時計塔で夕焼けを見ようと、職員室を抜け出してきていた。

事情を話さなくても、歩美は笑って『ごまかしておいてあげる~』と言ってくれた。

そもそも、ここに来て息抜きするように言い出したのは歩美だ。



「気、使わせちゃってるからなぁ~……」



シュウが消えた、一ヶ月前。

それからの二週間ほどは、ここに来ることを勧められても、ここヘ来てはシュウを探し、そして呆然としてしまって、夕陽を見るどころじゃなかった。

それでも――。

時間というものは本当に不思議なもので、少しずつ、シュウが居ないという現実を頭の中で理解していった。



「さくらさんは、夏休みにまた来る、と言い残してみかんちゃんを連れて大阪へ帰っちゃったんだって……。また会いたいね」



シュウがここに居なくても、もしかしたら聞こえているといい、という思いを込めて、私は話しかけるように喋った。

もちろん、この時間帯は塔に私一人なのだけれど。