俺に記憶の無いのは、さくらが死んだと思ったあの事件からの、空白の六年間。
そして、さくらと出会う二年前以前の時間だ。
過去の自分に会って、わかった。
記憶が連鎖的に記憶を次々と呼び覚ましていく。
「俺……ここに居たんだな」
空白の六年間のうちの、最後の二年間。
俺はこの学校に通い――二年生の秋、この時計塔から落ちた。
優しかった姉が居たことも、ひどくお人好しの両親が居たことも、他校に仲のよかった幼馴染みが居たことも……。
全て、思い出した。
魂だけの姿となった杉浦秀は、鬼となった。
さくらと出会った前年まで、時の中を流された。
そして――、杉浦秀は、『時計塔の鬼』になった。


