時計塔の鬼



そっと、杉浦秀の落下地点へと向かう。

三人の男たちはすでに逃げた後だった。



「おい」



応える声は、ない。

そうわかっていても、声をかけずにはいられなかった。



「馬鹿だな、お前は。……わざとこんなことになって、後には一体何が残るって言うんだ?」

「、るせぇ……」

「っ!?」



頭部から血を流しながら、杉浦秀は声を発した。

コンクリートが赤黒く染まっているのが、闇の中でもわかった。



けれども。

その後にたった一言を発しただけで、杉浦秀は意識を途絶えさせた。

闇の向こうから、救急車のサイレンの音が聞こえてくる。



なんだ、これは。

まるで……まるで、さくらが車に跳ねられた時と同じじゃないか。



最後に落とされた、杉浦秀としての、一言。

『俺はこれでいい』



――ふざけるな。

いくら、過去の俺だとしても、許せないことはある。

生きろよ。生きろ。生きろっ!



だが、救急車が現れた所で、俺の意識はこの場から引き剥がされてしまった。