時計塔の鬼



「でも、自分のことで精一杯やって、さ。今まで、ここに来る余裕なんてなかったねん」


「さくらさん……」


「ダンナもな、無理してまで行くなっちゅうし」



深々と溜め息をついたさくらさんは、ゆっくりと、抱きしめる力を弱めた。



「ホンマ、過保護やねんもん。ついつい甘えちゃうばっかりやし。でも、それだけやったら、あかんやん、て思って、みかん連れてこっち来たねん」



ゆっくりと離れてゆく腕から、かすかな振動が伝わって、震えているんだって、わかってしまった。

凛としていて、気丈で、それでいてとても優しい人なんだ。



「でも、よかったわぁ。ちゃんと、来て」



顔の近くで、さくらさんは、にっこりと笑んだ。

晴れやかに。

本当に、不思議な人だけれど、温かくて、素敵な人。



「歩美から聞いてた夕枝ちゃんに会えたし。それに、シュウが笑ってるから」



さくらさんの声はとても小さかったけど、シュウも歩美もみかんちゃんも静かにしているせいでか、辺りによく響く。



「夕枝ちゃんはシュウの恋人さんやねんなぁ」


「……はいっ」



顔に朱がさしたのを感じた。

けれど、その言葉が、なぜかとても誇らしい。

相手がさくらさんだからなのかどうかはわからないけれど、とにかく、嬉しいって、感じてしまう。