時計塔の鬼



「なんでかは知らへんけど」



目の横にある笑いシワを深くして、さくらさんは、本当に、優しく、柔らかく、笑ってた。



戸惑う。

ここまで優しく笑顔を向けられることなんて、普段、そうそうありはしないから。

なぜか懐かしくて、温かい気持ちになってしまう。



「夕枝ちゃんのおかげかもしれへんね」



そうして、身体に、ぬくもりが広がって、背中に流していた髪がゆっくりと梳かれたことで、さくらさんが抱きついてきたのだとわかった。



「ありがとうな」



耳元で、ゆっくりと囁かれた。

シュウにされるのとは、別のくすぐったさが、首に広がる。



「何を、ですか……?」


「シュウのこと」


「……私は、何もしていません」



そう。

私は、何もしていない。

私が、ただ、シュウを好きなだけ。

それだけだから、私はさくらさんからお礼を言われる理由なんてない。



「うん、だから、うちの自己満足やから、コレ」


「え……?」


「一応は、気になってたねん。シュウのこと。あんな事故現場やったし、見てたかもしれへんなぁって。実際、シュウは見てたわけやし」



その光景は、シュウの心に深い何かを埋め込んだんだと、話を聞いたとき、思った。