―Side Yue―…


「田中、ちょっとお前ツラ貸せ」



坂田君はそう言って、田中君を立たせ、私を振り返って「いいよな?」と聞いた。

私が無言で頷いたのを見ると、坂田君はちらっとシュウの方を見て。



「……負けた」



サカサカと歩き出してしまった。

一体、何に負けたのだろう?

勝負なんて、してないだろうに……。

変なの、とは思いつつ、シュウを隣から離れられない私に、歩美とみかんちゃんが近づいて来た。



「ちょ、ちょっと、夕枝、この人が、鬼なの?!」


「うっわ~、めっちゃかっこええなぁ……」



歩美は少し遠慮がちにちらちらと見ては逸らすが、みかんちゃんは遠慮なく、ジッと見ていた。

叔母と姪で、反応がずいぶんと違う。



「うん、そうなの」



なんとなく気恥ずかしくて、頬に朱が灯ってしまった。

ああ、何でなのだろう。

けれど、悪い気はしないのだ。



「シュ、シュウ。前に話してた、井上歩美と、歩美の姪の、みかんちゃん」



後ろにいるシュウには気付かれたくなくて、二人を紹介する。

といっても、おそらくは耳も赤くなってしまっているだろうから、それでばれてしまってるのだろうけれど。