時計塔の鬼


田中君は、いつもの田中君ではなかった。

見たこともないような種類の笑みを浮かべてる。

何かを想像して、何かを確信して、何かを握ってるような。



ゾクリッと寒気が背筋を駆けた。

なぜだろう、なんでだろう、なんで、こんなにも、恐怖を感じてしまうのだろう……?






「なんで……?」


「夕枝?」



歩美が心配そうに顔を覗き込んでくるが、構う余裕なんてなかった。

怖い怖い怖い怖い怖い……。

恐怖が、身体を包む。

体が自分の意志とは関係なく、強張っていくのがわかった。



相手が、田中君だとか、田中君は高校生で、私たちの生徒だとか、そんなことは関係がなかった。

ただただ、怖かった。

恐怖して、畏怖で身体が言うことをきかない。

……そんな感情を、私は知ってる。



「田中? お前、何しに来たんだ?」


「ちょっとした用事っすよー?」



カタカタカタカタと、身体が震えに覆われた。

五歩ほどの距離。

そうとう注意深くみなければ、震えが気付かれるとは、思えない。

けれど、田中君は、私を見据えた。

口元には、笑みが浮かんでる。

その口が動いた。



「沖田先生に」