キッチンからは、包丁とまな板が叩き合わされる音と、フライパンの油をはじく、軽快な音。

片や、それ以外の場所からは、様々なものが崩れたり散らばったり、掃除機がカーテンを吸いかけたりする、何やら不吉な音。

それらが広くはない家に響く。

すでに月が天へと昇っている夜に。

前者はともかく、後者の音は間違いなく近所迷惑だ。

カーテンを吸おうとする掃除機と悪戦苦闘しながら、そう思った。

明日、大家さんから苦情とか来ないと嬉しい。

それは果てしなく無理な願いだろはわかっているけれど。



「夕枝、ご飯出来たわよ……っ何!? さっきよりヒドくなってるじゃない! もう、だから座っててって言ったのにぃー!」



呼びにキッチンスペースから出て来た歩美の叫びが部屋に響き渡る。

わずかな時間で腐界の森と化した部屋に。

そう、腐界の森に。

暴れまわった掃除機の被害を受けてカーテンは窓から離れ、床に広がっている。

クローゼットらしき所には、服・バッグ・帽子・下着までもが詰め込まれかけている。

つまりは、半分くらい底から漏れているのだ。

小さなプラスティックのゴミ箱は満杯になった状態で、フローリングの床に横倒しになっている。

他にも、ソファと丸テーブルの上には、雑誌と参考書、教科書、ノートがタワーのように詰まれていたり。

枕の近くに飲みかけのペットボトルが何本も連立していたり。

まさに、腐界の森。