――ヒタッ…
――ヒタッ…



学校勤務が終わっての、帰り道。

藍色のベールの中で月と星たちが控えめに煌きを魅せる。

夜風は湿気を含んでいて、ひどく生温かい。



――ヒタッ…
――ヒタッ…



また、つけられてる。

人間としての、生き物として当然持ち合わせている危険本能が、警鐘を打ち鳴らす。

けれど、まだ、距離はあるだろう。

けれど……。



――ヒタッ…
――ヒタッ…



怖い、という事実に変わりはない。

恐怖心が、足を鈍らせようとする。

でも、それをしてはいけない。

逆に少し、歩幅を広げて、携帯電話を取り出して、歩美の番号を呼び出した。

わずかな月明かりの夜闇の下、携帯のプルルルッというコール音が静寂を破る。



お願いだから、早く。

歩美、早く出て……。