時計塔の鬼



本当のことを話してほしかった。

頼りなくても、何であっても、私はシュウのことなら真正面から受け入れたいって思っているのに。

けれど、シュウは気まずげに視線を逸らしてボソッと呟いた。



「違わない。俺は寝てただけ」



その言葉に、ヒステリックになっていく自分が止められない。



「ねぇ、自分の顔色見た? ただ寝てただけの人はそんな顔色で寝たりなんかしない!」


「関係ないだろ」


「何言ってるの!? 関係あるに決まってる!!」


「ない」



シュウは今までにないほど強く断じた。

頑ななまでの、拒絶。

強く、深く、複雑に、目が絡まり合う。



「夕枝には関係ない」


もう一度、駄目押しとばかりに、重ねて告げられた。



“関係ない”

なんて酷い言葉だろう。

なんて残酷な言葉だろう。

相手の存在を、自分の外に弾き出してしまう。

嫌な言葉。

大嫌いだ。

……もう、これ以上何を言っても、ダメだ。

今は、互いに頭を冷やすべきだろう。



シュウに背を向けて、下へと続く階段に足をかける。

時計塔を降りるために。



「シュウに関係ないなんて……言われたくなかった」



最後にポツリと、なんとかシュウに聞こえる程の声量でそう呟き、私は時計塔を後にした。