時計塔の鬼



ただただ、胸に温かいモノが溢れる。

驚いた様子のシュウと、呆然とする私。

互いの間では、視線が絡まり合って、胸が熱くなる。

胸も、頭も、心も……。

頬にも、熱が灯る。

そう思った途端、それはすぐに何かの感触に変わった。



「え、夕枝!?」



シュウが慌てて、手を伸ばしてくる。

筋張った、細くてやはり美しい指の、男の手が、頬に触れて、そっと、目元を拭った。

目元を離れた指先には、わずかだけれど、確かに水滴が見えた。

ぼやけた視界は、困ったような顔をしたシュウを一面に映す。



「泣くなって」



シュウに優しく言われ、そして気づいた。

自分が涙を流していたことに。

そしてシュウは笑った。

生きてる。

その笑顔に、再び視界がぼやけ出す。



「うん……」


「……できてないって。ほんと、どうかした?」



そのシュウの問いに、思わず平手打ちしてやりたいような激しい気持ちが湧き上がった。

理性を総動員させて、必死にそれを抑えようとした。

けれど、完璧になんてできるものではなかった。