「俺は部活帰りに教室によっただけですけど?」
「そ、そう?」
動揺が声に表れないようするのが精一杯だった。
確かに、ここは田中君たちの教室に近い。
怖い、と勘違いした自分が馬鹿みたいだ。
何を思ったか、田中君は苦笑して、「じゃあ、俺はもう帰ります」と言い、生徒用昇降口へと去っていった。
「一体何だったの……?」
首を傾げてから、シュウのことを思い出し、もう一度周囲を見渡し、時計塔へと歩を進め出した。
時計塔へ上がると、湿気を含んだ風が頬を撫ぜた。
梅雨ももうすぐだ。
「……シュウ?」
いるとわかっているけど、あえているかどうか、声をかける。
背中に気配がして、温もりに包まれる。
シュウがくれる温もり。
大好きですごく安心できる、そんな温もり。
「夕枝、おはよ」
「もうおはようじゃないよ? ……ごめんね、また遅くなっちゃった」
わざと、軽く、明るく謝る。
シュウはこんな細かいことをよく気にかけてしまうから。
そんなに気にかけなくてもいいのに、と思うのだけれど。


