時計塔の鬼



「夕枝姉ちゃん、歩くの速いよ」


「そう? でも、早く帰りたいじゃない?」


「はいはい」



葉平はやれやれといった体で応じる。

速く歩いてしまうのは少しでも早く帰りたいから。

……さっさと、恐怖を忘れたいから。



シュウと別れた後の一日なんて、夜なんて、私にはただの付属品。

そんなのは速く過ぎてしまえばいい。

私が速く歩けば歩くだけ、時間が速く過ぎるような気がして、私は速度を緩めることができなかった。






速く歩いていたからか、アパートにはすぐに着いた。



「じゃあ、またね。迷惑かけてごめん」


「ん。俺は夕枝姉ちゃんの頼みならいつでも聞くよ?」



大袈裟な葉平の台詞にと家に着いたことへの安心感から、自然と笑みが零れる。



「葉ちゃん……ありがとね」



いろんな“ありがとう”を込めた。

それに、葉平は「どういたしましてっ」と、おどけた返事を返して笑った。



「じゃあね。……バイトお疲れ様!」


「おぅ! おやすみ~!」



そうして、葉平は少しだけ来た道を戻った後、方向を変えて帰って行った。