時計塔の鬼



「……ごめんね、言えない」



今、この優しい従兄弟に先ほどのことを教えても、何も解決しない。

心配をかけるだけならば、いっそ言わないほうがいいのかもしれない。

ほんの少し、帰る時間を早めれば、きっともう会うこともないだろう、と自分で結論付けた。



「そっか」



葉平は少し残念そうに言う。


葉ちゃん、せっかくの気遣いだったのに、ごめんね。


胸の内で、そう謝った。

これを声に出すのはいくらなんでも葉平に失礼すぎる。



「俺にできることあったらいつでも言ってな?」


「うん、ありがとう」



“じゃあ”と手を振り、自動ドアに近付いてビクッとした。

さっきのは、もうどこかに行ったのだろうか?

行ってしまっていて欲しいと思った。

そう信じようとした。

けれど……恐怖は消えない。

無くならない。



「ねぇ、葉ちゃん」


「何?」


「裏口教えてくれない?」