――ピゥゥ……


強く風が吹くと、甲高い音がする。

太陽もすでに南中したとある昼下がり。

風の音に運ばれて、桜の花びらが俺のいる塔に届いた。



塔から出られない俺にとって、見ているしかなかった桜の花びらは、小さくて柔らかくて、鼻に近付けるとなんだかいい匂いがした。




「ははっ、これが“桜”か」



乾いた笑い声を上げ、妙に納得した心地になった。



春の昼下がりは、やたらと睡眠を誘う。

一眠りしようと座して、手すりのような壁に背を預けた。


さっきの桜の花びらは握りしめたままだった。



「そこに誰かいるん?」



目を閉じて、今にも眠りに落ちようとしたその時、程よく高い女の声がした。