時計塔の鬼




「夕枝……」



本当に優しい声だった。

そんな声で名前を呼ばれて、だんだんと俯きがちになっていた顔をあげる。



「何……?」




彼は、少し

……否、すごく切なそうな表情をしていた。

長めの黒髪の先の細められた目の中で、深緑がかった闇色の瞳が私を見据えて揺れている。

口元に浮かぶのが微笑であるだけに、その瞳の寂しさが際立っているようだった。




「俺のさ、昔の話。聞いてくれないか?」


「私が……聞いても、いいの?」



昔、それはつまり、過去の話。



それを、私が聞いてしまっても

知ってしまっても、シュウはいいのだろうか。