深く息を吐く。
吐き切る前に、息が震えてくる。
唇が揺れ、頬が揺れ、また涙になってしまう。
小さな子どものようだ。
僕は。
車のドアが開いて、早紀が戻ってきた。
僕は彼女の顔を見ようとは思うが、奥歯がカチカチぶつかる。
「温かい紅茶にしたよ」
早紀が差し出したペットボトルを受け取る手がすくむ。
「酒井君、」
早紀は僕の手に、ペットボトルを持たせた。受け取った僕の左手を、早紀は両手で包んだ。ペットボトルの温かさの向こうにあるその手は、冷たい。
「わたしは、今から、酒井君にきっと、とても辛いことを言うけど」
早紀の声が震えている。
僕は肩に力を入れていたことにようやく気づき、浅く息を繰り返して、ゆっくりと顔を上げた。
「でも、絶対に、わたしは酒井君に謝らないからね」
早紀は二つの大きな瞳を潤ませながら、僕のことをまっすぐに見ている。
「謝らない。絶対に」
それは、僕ではなく自分に言い聞かせるように。



