ガシャンっ!
実際球が飛んでくると、かなり体が震えあがった。
あたしはバットを構えたまま、固く目を瞑った。
恐る恐る目を開けてみる。
「ヤバい……。
莉奈、今の見た?」
あたしの鼓動が乱れる中、剛速球をなげた真由は、ぽかんと口を開けて放心状態になっていた。
「見た? って。酷いよ真由。
あたし初心者なんだよ?もっと優しく投げてよ」
あたしがバットを引きずりながら真由に近づくと、
「何言ってんの。あたしじゃないよ」
と、魂が抜けたような声を出した。
「今の、あの人だよ」
真由が指さす方を見ると、制服と同様にジャージを着崩す彼がいた。
彼は、見た目はあんなヤンキーなのに、一度も授業をサボっているところを見た事がない。
前に、真由が『今まで問題も起こした事もないし、大人しいヤンキー』と言っていた事を思い出した。
あたしが彼の事を何も知らない頃だったら、ほんっとに不思議な奴だと思ったに違いない。
「蔵島君、すごい」
「今の、あいつが投げたの?」
「まさか……、莉奈見てなかったの?」
「だって、真由のボールが怖くて目瞑ってたから」
俯きながらブツブツ言うあたしの肩を、『ほらっ、また投げるよ』と、真由が激しく揺らす。
あたしは真由の言う通り、大人しく蔵島恭平に目を向けた。
その瞬間。
ガシャンっ!
先程と同じ音がグランド中に響き渡った。
――速い。
瞬きなんてしていたら、素人のあたしの目にはボールが映らないくらいの速さ。
バッターとキャッチャーを通り越して、後ろのフェンスにボールが当たっていた。
コントロールは別として、あんなに速けりゃ、誰だって呆然となるよね……。
なんで、あいつにあんな速い球がなげられるんだろう。
部活、でもしてたのかな。


