「帰るぞ、莉奈っ!」
「何かあったの?」
「いいから早くっ!」
恭平の慌てぶりは、尋常じゃなかった。
慌ただしく『Hony』を出て、人の波をかきわけて走る。
何度も人の肩にぶつかっては、頭を下げた。
状況を理解しないままこの炎天下の下を走るのは、正直辛い。
「恭平っ!」
「………」
「ねぇ、恭平ってばっ!」
後ろから叫んだ。
「なにがあったの?」
声を荒げると、恭平は前を向いたまま
「優斗と美穂がいなくなった」
それだけ言って、走るスピードを上げた。
――っえ、
いなくなったって……。
街から教会まではそんなに遠くはないはずなのに、どんなに走っても一向に近づいている気がしない。
気持ちばかりが焦る。
呼吸を整える間もなく足を動かし、酸素の回らなくなった肺が悲鳴をあげていた。
息が苦しくて、徐々に足の回転が遅くなる。
のどかな住宅街に、あたし達の荒い息が響いていた。
そんなあたし達の姿を、各家の塀から顔を覗かせる向日葵が、日光浴をしながら、うるさい奴らだと見下ろしていた。


