「どうした?」


突然目の前に現れた人物に、はっと視線を上げる。


だけどすぐに、体を背もたれに預けた。


「真由……」


辺りを見渡すと、とっくに授業は終わっているようだった。


ずっと、考えていたからか。

まさか、こんなに時間が過ぎてたなんて――。


「元気ないぞぉ」


真由におでこを突っつかれ、乱れた前髪をさっと直す。


目を合わさずにすぐに下を向くあたしの顔を、真由がそーっと覗き込む。


「莉奈、ほんとにどうしたの? なんかあった?」


優しい真由は、あたしの少しの変化にも気付いてくれる。


それがあたしにとって、すごく心の支えになってるんだ。

だけど……。

この悩みは、真由には言いづらい。


別に隠すような事じゃないんだけど、相手が蔵島恭平だから、きっと真由はいい顔をしないと思う。


それに、あいつの事を悪く言われるのは、ちょっとだけ辛い。


複雑な気持ちでいっぱいで、真由に返事が出来ないでいた。


だからと言って、自分一人で解決できるとは思えないし……。


「あたし、部活いくよ?」


いつまでたっても返事をしないあたしに、優しい口調で真由が言う。


鞄を抱えて真由が席を立つと、あたしの目の前に携帯をぶらつかせた。


「話したくなったらでいいよ。夜中でもいいし」


そう言って、満面の笑みをあたしに向けてくれる。


真由、ありがとう。未熟なあたしでごめんね。


あたしね、いつだって真由に助けられてたんだ。


だからいつかは、あたしも真由の力になりたいって思ってたんだけど、あたし、要領が悪すぎたね。


あたしね、真由を裏切ろうなんて思った事はないんだよ。


ほんとに一度だって――。


いつも何か問題が起こるのはあたしのせいで、こんな自分が嫌になる。