――あ、そうか。
だからあの時、あんな思いつめた顔をしていたのか。
部活紹介のプリントに視線を落として、あんなに切ない表情をしていたのは、きっと、お父さんとの思い出を思い出していたからだったんだね。
「そっか。 野球は好き?」
「あぁ。俺が唯一出来るスポーツだから」
彼は目を細めて天井を見上げた。
「部活しようとは思わないの?」
「………」
「なんで?もったいない。あんたぐらいの腕だったら、普通にレギュラーになれるでしょ?」
黙り込む彼の腕を強く握る。
先程とは打って変わって、彼の表情が曇った。
腕に力を入れているのがわかる。
なぜ、眉間にしわを寄せて唇を噛み締めるのか、あたしにはわからない。
だって、素人のあたしの目から見たって、こいつの投げる球は速かったんだから。
「ここってさ、野球部強いんでしょ?もしかしたら、って言うか絶対今年も甲子園に行くだろうし」
「いいよ。
もう、野球はやらないって決めたんだ」
「そこで活躍すれば、みんなのイメージだって変えられるかもしれないじゃん」
あたしは、彼に野球をやってほしかった。
だって、いいアイディアだと思ったんだもん。
自分の好きなことをしながらみんなのイメージを壊して、尚且つ、彼が笑顔で過ごせて。
これで全てうまくいくじゃん。
何を考える必要があるの?
「ねぇ、部活入んなよ」
「だから、もうやらないって決めたんだって」
「あっ、そうだ。もし言いにくいんだったらさ、真由がマネージャーだし、あたしから言っておくよ」
「だから、やらないって」
「ねぇ、がんばってみな――」
「うるせぇ!」


