パリ・ローマ幻想紀行

(ⅲ)マリアの嘆き
 この、サンピエトロ大聖堂は、ミケランジェロの最も晩年の建築である。この大聖堂は上空から見ると、十字架の形をしている。ミケランジェロが提案したのは、縦横が等しいギリシャ十字であったが、この提案が受け入れられずに、縦が長いラテン十字になっている。
『あなたはペテロだ、あなたに天国の鍵を授ける』という聖書の言葉がラテン語で書かれていたからなのか?それにしても、こんな言葉を誰が書いたのだろう?天国も地獄もないイエスが見ている景色、そのイエスの景色に共感を持っているペテロ自身にも、天国と地獄はないはずだ。あえて、ギリシャ十字を提案したミケランジェロの気持ちが、天井画以外に、ここにも現れているような気がする。
 この天空から見た十字のクロスする部分に、遠くから見える丸いドームのクーポラが位置しており、このクーポラの真下にペテロの祭壇がある。このクーポラの頂までの高さは百三十メートル以上もある大きな空間だ。天国をイメージしたのであろうか、ステンドグラスには、天使らしき絵が描かれている。それにしても、千八百七十年に、ヴィットリオ・エマニエレ二世が入城し、国王軍が城壁を砲撃して、白旗をあげたのは、このクーポラのてっぺんであった。いわば、ペテロの上であり、天国であるクーポラのてっぺんに白旗をあげたのは、恥も外聞もないような気がする。<最後の審判>の絵の前に、無造作にイエスの像を置いたのと、少しも変わるところがない。もしも、そうでないとしたら、白旗をあげた位置が謎に包まれる。