パリ・ローマ幻想紀行

「はい、見えます。人を人として認める愛には、人を裁く審判という雑念はないのです。善も悪もないのです。静寂の世界には、天国も地獄もないのです。審判も善悪も、天国も地獄も、あなたが足元に見ている景色の中にあります」
「どのあたりじゃ」
「右手を上げて下を見下ろし、筋肉隆々とした若者に、イエスを描いています。聖母マリアがイエスから顔を背け、両手を顔にあてがって、恥ずかしそうにしています」
「そうか、そのように見えるか」
「生きながらにして、皮を剥かれているのは、教皇に背いているあなた自身ですね」
「そのように見えるか」
「はい、そのように見えます。審判を下しているのは、権力を誇示している教皇ですね。イエスではないのですね。権力を誇示して威圧し、権力におぼれた若者の教皇ですね」
「解ってもらえるか」
「はい、解ります。教皇の周りに集まっている殉教者は、教皇の権力に従順な僕であり、天使が舞う世界は、権力と富と地位を謳歌している世界であり、地獄に落ちる者は、破門された者やキリスト教会に所属していない者のように見えます」
「そうか」
「はい、そのように見えます。こんな者に、生きながらにして、皮を剥かれたところで、何の不満があろうか!イエスの回りに集まっている殉教者の中に、あなたの自画像を描かなかったあなたの景色がよく見えます。アダムとイブが自ら楽園から逃れるあなたのあの景色がよく見えます」
「そうか」