パリ・ローマ幻想紀行

(ⅱ)最後の審判
 急にざわめきが聞こえてきた。私は、ぞろぞろ移動している人の波の中に立っていた。私は急いで、この天井画にレンズを向け、上をむいて歩いている伊沙子さんを画面に収めながら、人の波に流されるかのように移動した。そして、システィナ礼拝堂の『最後の審判』の絵の前に出た。大きなガランとした薄暗い部屋の正面にこの絵があった。とてつもない大きな絵であった。この大きな絵に威圧されたかのように、絵の前にうなだれている人が大勢いた。多分、バロックに引き寄せられた信者達であろう。
 絵のほぼ中央に、右の手のひらを下に向けて威圧するようにその手を上げているイエスが配置されている。視線は下を見下ろし、身体は筋肉隆々とした若者である。審判者はこのイエスである。容赦しない審判を下すのである。教皇庁の義典長の肖像を、ロバの耳をして腰に蛇を巻き付けた地獄のミノスの中に描いている。イエスの回りには聖母マリアと殉教者たちがいる。生きながらにして、皮を剥かれた聖パルトロメオの歪んだ顔は、ミケランジェロの悲劇的な自画像である。中央にはトランペットを持った天使たちがいる。左下方にいる死者は天使のトランペットの音によって蘇る。また、選ばれた者達を天につれてゆく天使もいる。力強い天使達がロザリオの数珠を用いて、仕事と信仰への献身をした二人の黒人を引き上げている。右端には地獄に引き落とされる、呪われた者達の群れがいる。また、ぷつりと雑音が消えた。
「あなたは笑いながらこの絵を描かれましたね」
「そのように見えるか」