パリ・ローマ幻想紀行

「まず構図です。左側の男子は蛇に両腕を巻かれて生気をなくしており、右側の男子は左足に巻き付いた蛇を左手で解こうとしながら、右手に巻き付いた蛇が、蛇の首をとらまえているヘラクレスの左手に引き寄せられて、必死に蛇の頭の方から逃れようとしており、三人の足は蛇に絡まれて一体となって身動きできない状態であり、ヘラクレスの左の腰の辺りに、蛇の牙が触れていて正に噛んとしている蛇の首を、右側の男子の右腕の絡まりにより自由を失ったヘラクレスの左手で必死にとらまえている、その構図です」
「なるほどのぉ」
「そして、ヘラクレスの脇腹に隆起している肋骨、肩、足に浮き彫りされている隆々とした筋肉、血管の筋、この表現は如何にも巨人であり、人間の強靭な肉体を忠実に表現しています。次に、顔を見たときに、この筋肉隆々とした巨人が、一瞬の内に打ち消されるのです。蛇に噛まれるのを避けるために、無意識の内に体をくねらせ、この身体のくねりから生じる肉体的に、或は精神的な必然の姿として顔を上向きにして、のけ反るように首を曲げ、口は闘志を失ったように無意識の内に開き、目は諦めたように、上瞼の下に隠れてその光を失っています。正に、人間としてどうすることもできない極地の状態が私には見えます」