パリ・ローマ幻想紀行

「仁さん、何をぼーっとしているのよ」
私は、伊沙子さんに呼ばれて、はっと我に返った。大勢の観光客の中に、にわかなざわめきを感じた。
 このレオニーヌの城壁の中には、富、権力、地位が底流をなしている。この城壁は『目には目を、歯には歯を』だけが閉じ込められているように語りかけてくる。現在もなおそうである。

権力は、その権力に平伏す者があって、初めて機能するものである。平伏す者がなければ、権力は機能しないのである。

 螺旋階段からピオ・クレメンティーノ美術館へと繋がっている。館内の壁の窪みには、発掘された古代ローマの彫刻がほぼ等間隔に並べられていた。権力と財力にものを言わせて掻き集められたこれらの彫刻は、皆そっぽを向いているように見えた。一つの彫刻の前にたたづんで、じっくりと見ることはできなかった。ぞろぞろとうごめく人の隙間から、私はこれらの彫刻をビデオカメラに収めた。
 均整の取れた人間像、筋肉が脈動している肢体、皇帝の富と権力にあふれた顔、何れも権力者がモデルであるところを見ると、製作者は平伏す者であるに違いない。それにしても、ゴツゴツした原石から、一つの表情を持った人間像を削り出す芸術には、素晴らしいものが感じられる。