電器屋を後にして、とくに行くあても定まらない足でブラブラと歩いた。

横を見ると、口をモゴモゴさせているユチがいた。


「何か食べよっか」

「何で?」

「えっ……ああ、バイトあるから食べてる時間ないか」

「そうじゃなくて!何で私が腹減ってるって分かったの?」

「何となく」

「エスパーめ」


ユチは思考を読まれることを嫌う。

その割りには短絡的で分かりやすい。


「マサが決めて」

「俺が決めるとトンカツになっちゃうけどいい?」

「それ以外で」

「エビフライ」

「アンタ揚げ物好きすぎでキモいってば!他に好きなもんないの……」

「他かあ……」

「もういいよ。腹減ってないし」


不服そうにそっぽを向いたまま道なりに歩く足が、ある店の前で止まった。


「エンヤか」

「違う」


CDショップの店頭に掲げられた新着リリース表を隈なくチェックするユチ。


「……今の音楽業界は腐ってるね」

これはユチの口癖だ。

「聴いてもないのに可能性を否定するのは如何なものかと」

俺もお決まりの返答をする。


ただ、いつもと違ったのは……


「聴かなくても分かる。コイツ等の前作とか1曲も聴ける曲なかったし」

「今回は違うかもしれない」

「栄華衰退って言葉知ってる?」

「一度挫折を味わった人間の這い上がろうとする力は半端ないって」

「どうだか」

「試しに聴くだけ聴いてみよう」

「……わかった」


俺の意見を珍しく受け流さなかったことだ。