「真崎が…拉致られた」
咲也くんは、そう言ってがっくりと肩を落としていた。
「え、なに…どういうこと?」
拉致られたって…?
それに、真崎くんが来てるの?
「あー、もう終りだ」
「落ち着けしょーやん!で、その、真崎はどこに連れてかれたのかわかる?」
「…体育館……」
体育館…?って、今は確か放送部の子達主催ののど自慢大会が開催されてるはず。
なんで、体育館なんかに?
「白木、体育館だって!体育館!!はやく行けよ」
塁くんは咲也くんを無理矢理立ち上がらせながら言う。
「え…」
「真崎に会って、ちゃんと話してこい」
「うっ、うん!!!」
私は素早く回れ右をして、体育館へと走る。
「あっ、咲也くんお大事に!塁くんありがとう!!」
振り返ってそう言うと、塁くんは頑張れと言って手を振ってくれた。
はやく、真崎くんに会いたい。
「………で?」
塁の肩に手をかけながら、咲也が聞く。
「ん?」
「お前は話出来たのか?」
「んー、言えなかった。
俺は最初から完敗だし
逆転ホームランどころかヒットすら打ててねー…
でもいいんだ、今の俺、たぶんすっげー幸せだから」
そう言って、走って行く美優の姿を笑顔で見つめる塁は、やはり幸せそうだった。