私はぎゅっとつり革に
つかまりました。


そして無意識に
そっと彼のほうを
見ました。


彼は彼の近くにいた
おばあさんが
ふらついてこけそうに
なったところに手を
差し出していました。




そして聞こえたのは
彼の声でした。

「大丈夫ですか?」


「あぁ・・・ごめんなさいね、
ありがとう」


「いえ、どういたしまして」
彼は静かに答えました。



その彼の声は私の中に
すうっと入ってきました。


透き通るような低い声、



それでいてやさしい。


私はつり革をぎゅっと
握りしめたまま

彼の声を忘れないように

何度もこころの中で
反芻していました。