守ってあげたい 〜伝染〜

男は一瞬追いかけようとしたが、直ぐに諦めてシートに身を沈めた。

ルームミラーで噛まれた耳と殴りつけられた右目を見てみる。

耳は2センチぐらい避けていて血が滴り落ちていた。舌打ちをしてティッシュを取り出し押さえる。目は何とか直撃を免れ瞼ギリギリが赤く擦り剥けていた。こちらは出血はない。

バラバラになって助手席に散乱したCDケースを拾い上げる。この角の部分で殴られた様だ。これが目に当っていたら大変な事になったかもしれない。そう思うと激しい怒りが湧き起こってきた。

「畜生あのアマ……」

耳に当てたティッシュが真っ赤になってきたので新しいのと取り替える。

これは病院に行かなければ駄目かもしれない。しかしくっきりと歯形のついた傷口をどう説明しよう。

そんな思案をしていると不意に後部座席のドアが開き人影が滑り込んできた。

ギョッとして振り返る。