自棄に冷えて真っ暗な、僕の家までの道のりを、ゆったりとした足取りで並んで歩く。
あたりはすっかり夜で、ひっそりと立っている古びた電灯が、ぱちぱちと寂しく歌っているだけだった。

「心当りとか、全く無いの?」

煙草をふかしながらそう言った千代に、首を横に振る。

「じゃ、心優しい峰谷さんが、見ず知らずの女を拾ってやったというわけね。」
小さな笑いとともに皮肉気に言われた言葉に、眉間に皺がよる。

「……落ち着いていられないだろう、家の前で人が倒れていたら」

「そうねえ。でも私だったら、まず警察呼ぶわ」

そう返されて、自分自身を嗤うような笑みをつくる彼女の口元に、くすりと笑った。

よいしょと背負いなおして、そのまま、視線を僕の肩に頭を乗せてすやすやと眠る彼女に向ける。

千代もまた、同じようにその寝顔をちらりと見やって、小さな子供みたいね、と笑った。



視線を前に戻すと、そこには見慣れた屋敷の大きな影があり、ぽつんと灯る外灯が、優しく穏やかに、僕たちを迎えてくれていた。