……こんなさびれた町の町医者なんて、そう仕事はなかった。

病気のばあさんやじいさんが少なくて、大人も子供もみんな健康体ってわけじゃあない。ここに住む者はみんな―「医者にかかりたくない」ってのが口癖みたいなもんなんだ。

私の腕が信用ならないのか、医者ってもんが嫌いなのか、理由はよくわからない。まあ、どっちでもいいけど。

とにかくよっぽどこじらせた時くらいにしか私の診療所には来ないし、薬を処方するといっても、家で代々使っている薬があるだのなんだのごねて―喧しいからとにかく押しつけてみたって、処方した薬は結局そのへんにポイ、だ。
今はもう、面倒だからそんなこともしなくなったけど。


…まあそんな、まじめに仕事してんだか適当なんだかっていうゆるい生活してるもんだから、ここに診療所をもってこのかた、緊迫した空気なんてありゃしない。


―だから。
あいつも、のんきに診療所の前でたばこ吸ってる私を見ていて、こいつなら使えるんじゃねえかと思ったのかもしれない。


今更だが、とんだ迷惑だったがな。