「殆どの日を家で篭って過ごすか、馴染みの本屋に入り浸るだけのお前がな。…今日は、雨が降るな」
かすかに皮肉げに笑みをつくって言われた言葉に、また小さく、笑みが漏れた。
…何故、ここに来たのか。
実を言うと、僕にも詳しくはわからなかった。
ただ、今朝目覚めたときに――いや、あの少女の手を握ったときに、胸のなかに今まで知らなかった感情が生まれた。
そして、そのあたたかな疼きが、僕の足を外へと向かわせたのだ。
例えるなら、美しいものに出会ったときに、思わず誰かにしらせたくなるような。
その感覚に、よく似ている。
……だがしかし、それをこの目の前の人物に話したところで、怪訝そうな顔をされて終わるということを、僕はよく知っていた。
視線を落として、再度湯気を見つめる。
ゆらゆらと揺れて空気に溶けていくそれに、誘われるように口が動いた。
「…もし、見知らぬ女性が家の前に倒れていたら…周平なら、どうする?」