はたと動きを止めて、暗闇の中その正体を探そうとするけれども、相変わらず何も見えないままだ。
それは、動きを止めた私の手を更にきゅっと包み込む。


冷えていた体と心に、次第に熱が染み渡っていって。

どうしてだろう、無性に。

無性に、泣きたくなった。


知らないあたたかさ、だった。

包み込んで、緊張と恐怖を溶かして、全てをそこにゆだねてしまいたいと思うような。


目頭が熱くなり、いよいよ涙が零れ落ちそうになったとき、頬にもまた、あたたかな何かが触れて。
それが誰かの指先だと感じた私は、そこでやっと、意識が現実に戻った。


びくりと肩が動き、反射的に頬にかかる指を払う。
こじ開けた瞼の向こう、先ず初めに見えたのは、昨日出遭った茶色の瞳。

それがふたたびきゅっと細められて、目じりに皺を作って。



本当になんで、この男の作る空気は、笑みは、こんなにも甘ったるいのかと――私は覚醒しきっていない頭で、ぼんやりとそんなことを思った。



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