不思議で、ならなかった。
この千代という女といい、藤士という男といい。
考えても考えても分からなかった私は、食事のあとのやたら空気の緩んだその時間に、二人に疑問を投げかけた。
「なんで、私を助けたんだ?…どうして、ここまで、何処の者かも分からない私の世話をするんだ」
瞬間、穏やかな空気が、はたと止まったように感じた。
縁側に出て、胡坐をかき本を読んでいた藤士、食後の茶を啜っていた千代。
二人とも、きょとんとした惚けた顔で、私のほうを見ている。
暫しの沈黙の後、先に口を開いたのは千代だった。
「何でかって…そんなの、私は知らないわよ。治るまで世話を手伝って欲しいって頼んできたのは、こいつだしね」
そう言って、顎でしゃくって藤士を指す。
ふられた藤士は、うーんと小さく唸ったあと、ぱたりと本を閉じ、首を傾げて言った。
「どうしてでしょうねえ。」
その言葉に
体中の力が、抜けた。
…そんな、理由もわからずに、人を助けて世話までする奴がいるか。
表情をゆがめる私に、藤士はただ、にっこりと笑った。