静かな食卓だった。
誰も一言も喋らぬまま、箸と茶碗、皿が軽くぶつかる音だけが響く。
それでも。
たとえそれがどんな沈黙であっても、私にはそのほうが安心できた。
喧騒や、物と物がぶつかる激しい音。
…騒音程、怖いものは無い。
強く鍵を閉めて閉じ込めていた記憶が呼び覚まされ、黒い感情が胸の奥で湧き上がる。
それに眉を顰めつつ、あらためて、卓に並べられた料理を見る。
そこにあったのは、全て。
……つい最近迄の私にとっては、無縁のものばかりだった。
湯気があがるご飯だとか、具沢山の味噌汁だとか。
今まで私が口にする物と言えば、食べ物かどうかも定かでは無いものばかりで。
また
味わったことの無い、甘さが
胸の中一杯に広がった。

