私は自分の座席に戻らずに、ずっとトイレの前のスペースに立っていた。
懐かしい感じ。
この胸のドキドキ感。
長らく感じていなかった。
でもまさかあんな男に感じるなんて。
ミキオみたいな危険な男でもないし、誠人みたいにイケメンでもないってのに。
10分は、ありえないくらい長かった。
「お待たせ!」
爽やかな声に振り向くと、高森勇介がいた。
そして、辺りをキョロキョロとした後、照れくさそうな顔で言ったんだ。
「良かったらまた会ってもらえませんか」
初めて。
こういう誘い方。
―俺と付き合おうぜ
―飲みにいかない?
―彼氏いんの?
そんな軽い誘いには慣れている。
でも、姿勢を正して、両手を太ももにピタっとくっつけた高森勇介の言葉は、今まで経験したことがない空気を運んできた。