ふわッ……――



「……え」


彼が通り過ぎたときに

一瞬だけ私を包み込んだ香り


さっきまで私の前にいた香水の香りじゃなく、



懐かしくて

どこかで匂ったことのある香り。




その瞬間


気づいたら私は





泣いていた……。



「な…んで…よ…。」


なんど目を擦っても止まらない涙



懐かしくて
もどかしくて
苦しくて…


でも…それがなぜだかは分からない。




私は泣きながらその場にしゃがみ込んだ



身体にはあの香りと



耳にかかった彼の吐息の余韻が



熱を帯びたまま
…残っていた。