『人に見られたら困るから』という理由で、 その日の出発は早朝だった。 まだ、空は暗い。 「ちょっと、ここからは離れてるんですけど……一緒に行きましょう」 そして目立つわけにもいかないので、 直接持って行けるのは手荷物だけだった。 少しの間、生活するのに必要な着替えだの化粧品だのは、 後で十郎さんが送ってくれる段取りになっている。 そして昨夜、その荷造りに何だかんだで時間を食ったので、 私はあまり眠れなかった。