一夜明け、もう昨夜の服から悠斗くんの香りは消えていた。
ほのかにだけど、香ってた高級そうな、でもキツすぎない爽やかな、優しい香り。


まるで、もう夢から醒めたみたい。現実の世界に戻ったあたしを待っているのは勉強、勉強の毎日。


昨夜家族を起こすまいとお風呂を遠慮したから勉強の前にシャワーを浴びよう。


そう思い、あたしはお風呂の準備を始めた。


ふと目に入った携帯。
この小さな機械に、悠斗くんのメモリーが入ってる。そう思うと、心臓が小さく跳ねた。


「…でも、期待しない方がいいよね。」


悠斗くんは、きっとあたしに連絡することはないだろう。あたしに教えてくれたのも、友達になりたいって言ったのも、きっと社交辞令。

あたしから連絡することはない。だって、それは迷惑なことだと思うから。


だから、このメモリーを開くことはない。


そんな当たり前のこと。
なのに何故か切ないの。