私の怪訝そうな顔など歯牙にもかけない様子で、ヒコは軽くそう言うと、私に車を運転するよう促した。

ヒコが、自分の車を運転しないというのは有名な話だ。

「こういうときって、何か買っていく、べきなのかしら?」

「エロ本」

「……それは、彼女からの見舞いの品じゃないと思うんだけど」

「そう? 退屈しのぎになるのに」

多分、この男は私が女だってことを、とっくの昔に忘れているんだと思う。

コンビニによって、正志が好きそうなスナック菓子をいくつか買う。
ついでに、今週発売の正志愛読少年漫画も一冊。

「で、どうしてアンタが知ってるのよ?」

「ん?
やけにこだわるね、何、それ。
嫉妬?」

綺麗な顔でふわりと笑うと、さらりとろくでもないことを口走る。

「……ちょっと、ヒコ、正志に手なんて出してないよね?」

「大丈夫。俺、こう見えても女の子が好きなのよ」

人の助手席で煙草を銜えながら、冗談じみた口調でそんなことを言われても、信じていいのかどうか分からない。

何せ、彼はものすごくモテるのに、『恋人は作らない』主義を宣言していて、それに従って生きているので。

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