『いいかい?あんた、絶対退学すんじゃないよ!』




ババァ――、一般的にいうと母親に酸っぱくなるほど言われた言葉が脳内を駆け巡る。




俺はイライラする手元を押さえながら出来るだけゆっくり木製の引き戸を引いた。




田舎臭い教室、田舎臭い生徒、教師。


親父の左遷をキッカケに、父方の祖父母の家に引っ越すことになった時、祖父母の住む村の田舎臭さをよく知っていた。




頭も良く要領もよかった俺は、高校受験で寮性の私立学校に合格し、意気揚々と両親を見送ったのだが。




俺は頭の回転が早い以前に。





『なめとんのかコルァァァ!』




人様に手を出すのも早かった。


特待生として華々しい高校デビューを果たした俺だったが、その喧嘩っぱやさから忽ち生徒から恐れられるようになり、地域に名前も広まり、他校との大規模な抗争の末、退学処分となる。





確かに殴った俺は悪いかもしれない。

しかしだ。



「大貫雅則君だ。仲良くしてあげてね!」




なんでこんな田舎町に来なきゃいけねーんだよ!!




「じゃあ席はあそこね」




気の弱そうな眼鏡が、窓際に臨時で作られたようなはみ出た座席を指差す。
暴力事件を起こした事は伏せられていると聞いていたが、この眼鏡担任は知っている風だ。



耳に開けられた複数のピアスに金色の髪、俺がある種の“ヤンキー”であることは周りから見ても明白だったようで、席に向かう間は誰も目を合わせようとしない。


都内の私立学校とは違う、ニスが所々ハゲた木目の床に、それに揃えた木製の机、30~40人には居るが明らかに少ない教室の数。





うんざりだ。





こののほほんとした空気も、喧嘩が無さそうな風(かぜ)のにおいも、何もかも。




乱暴に椅子へ腰掛け、浅く座り直すと不意に響いた音に教室の空気がピリッと張り詰めたのがわかった。




怖がられている。





面白いじゃねぇの。




また俺はここで。






―――…天下取ってやるよ