「うぎゃ」



やっと一仕事終えて落ち着こうとした心臓が、抱き寄せられたことによってまた騒がしくなった。




「ったく、おせーよ」




頭の上で呟いた声を聞いて私は勢い良く顔を上げる。



「おせーって!私がどれだけ緊張したか!人の気もしらないで!」



今だってすごいドキドキしてんのにさ!
なんなの!?
頑張ったんだから賛辞の言葉くらいよこしてよ!




「人の気をしらねぇのはお前だ」




「は?」



「お前俺がお前と居て平然としてると思ってんのか?」



「うん」



「んなわけねぇだろアホが」



「アホ?平然と何でもするくせに!全然余裕じゃんか!」




「お前は理性というものの存在を知るべきだ」



「知ってるわ!少女マンガでイケメン男子が“俺の理性が保てねぇよ”って言ってたから知ってるわ!」



「なんだその気持ち悪いセリフ」



「しらん、出版社に問い合わせてくれ」



「まぁとにかくだ。理性っつーもんはそう簡単にぶっ飛ばないもんだ、例え好きな女の前でもな」



「好きっ…」


「それ位で照れるな、理性が保てなくなる」



「キモ!」



「冗談に決まってんだろ、理性があるから俺はお前の出方を窺うし緊張もする、ただの人間だからな」




背中に回されていた手が、私の頭を掴んで彼のブレザーに押しつけられた。




「わかったら大人しく抱きしめられておけ」




預けられた体から、私と変わらない速さの音が聞こえる。



「わかった気がする」




そんな風に返事が出来たかは分からない、私は彼の音を聞きながら心地よいそれにつられるように、目を閉じた。










fin