聞き慣れぬ名前だ。
私だって女の端くれなんだし花の種類は多少なりとも知っている。
なめないでいただきたい。
しかしだ。
あげ…?あげ何チャラなんて聞いたことも見たこともないわけで。
「どんな花?」
「んー…、なんか飴玉に毛が生えたみたいなやつ。なんか美味しそうなやつだよ!」
ダメだ!
まったく想像つかん!
私が脳内でアゲ何チャラ像を作り上げるのを諦めハルを見ると、シャベルを引きずりながら花壇から出て来ていた。
それから周りを見回して、他の花壇を気にしているようだ。
「…、春になったら」
「え?」
「春になったら、また花だらけになるよ!」
冬に咲く花のイメージは殆どない。
もしかしたら知らないだけかもしれないけれど。
よく見れば目の前にあるコスモス花壇以外の花壇にも花は一つもなかった。
腰ほどの高さの枝が伸びていたりはするが、色はない。
転校してきた頃、この前庭には確かに花が沢山咲いていたのに。
「そっか、またここの花が咲く頃には卒業してるんだ」
ふと、そう思った。
自分が生きてきた17年の中で、恐らく最も濃い1年。
過ぎてみると早いもので、あと数ヶ月もすればみんなバラバラになる。
きっとそんなのあっという間だ。
「ねぇリン」
「何」
「アゲラタムの花言葉、知ってる?」
シャベルに手をかけたまま、ハルは私を見下ろす。
殆ど変わらない身長、でも彼は少しだけ伸びたようにも見えた。
だって私を見る彼が、妙に大人びていたから。
「“幸せを得る”“信頼”“楽しい日々”」
一瞬柔らかく笑ったがすぐにいつもの無邪気な表情に戻り、私の手に自分の手を絡めた。
ふいに香った土の匂いと冷え切った手のひら。
「花はただ咲いているんじゃない、何かを伝えたいんだと思うんだ」
真面目な事を言うハルは初めてで、間に流れる風の冷たさも忘れて揺れる明るい髪を見つめた。


