腹立つ。
誰が誰のモンだって?
大体ただの幼なじみがそんなこと言う権利があるのか。
理由も解らない苛立ちを、ぶつける場所もなく強引に溜め息をついて、俺は控え室の扉に手をかけた。
午後になっても、相変わらず騒がしい店内に背を向けて扉を閉める。
普段しっぽを振って寄ってくる女生徒ににこやかな笑みを浮かべるながら要望に応えるのも、疲れた。
人気者は辛い、と言った所だがそれよりなにより仁東鈴夏に関する色々で疲れ倍増である。
――…星南右京といい、なんでアイツの周りには変な奴しかいないんだ
「…」
なんで俺様がイライラしなきゃいけねーんだよ。
考えるのやめよう。
せめて息抜きさせてくれとも思ったが、控え室で委員長に“宣伝のため”ということで着替えるのは却下。
軍服のまま、一日を過ごすはめになった。
「ねー!おれ頑張ったんだから、早く!」
キルトを初めから脱ぐ気はなかっただろう春が、控え室の扉から顔を出す。
園芸部である彼が作った作品を、見ろ見ろと、午前中から煩かった。
今も外で俺が着替えを終えて出てくるのが待ちきれず、中を覗いたのだろう。
「あれー?着替えるのやめたのー?」
「委員長が、宣伝の為に着てろだってよ」
「へー!じゃあ、宣伝しながらいかなきゃだね」
園芸部と写真部の合同企画らしい。
園芸部が、テーマに添って作った作品を写真部が撮り、写真として掲載する。
うちの学校は、写真家の息子とか、華道家の息子とかがゴロゴロいるからその辺のレベルは高いと思う。
見に行くのも悪くない。
「お前の母親は見にくんのか?」
「うん!午前中に来てくれてたみたい!褒められちゃった」
春の母親は有名な華道家。
彼は園芸部に入ったのは、その影響だ。
「あ!えーっとね、今回はランランの一番凄いよー!」
「ランラン?パンダか?」
「違うよー!ランランはね、2年生のランラン」
「わかんねーよ」
「ランランはねー、しぃちゃん曰く“庭園の王子様”ってやつでねー」