「ふぇ…」
いやぁぁぁあ!
私か!私が泣かせたのか!どうしようデンデン太鼓とかそういう…、そんなもんあるかぁボケ!
「お前がそう思ってたって慧は理不尽に怒られて怪我させられただけだ」
要冬真の凛とした声に我に返り顔を上げると、チラリと視線が合いそれから海ちゃんに移った。
「だって…」
「だってじゃねぇよ。ご丁寧にヒッカキ傷までつけやがって、その事はちゃんと謝ったのか?」
語りかけるような優しい声。
私には向けられた事のない眼差し。
海ちゃんはゆっくり首を横に振った。
「まずそれを謝りにいけよ」
「だっ」
「だってじゃねぇ、今回はどう考えてもお前が悪い。慧が好きならフラフラするな、今までのツケが回ってきたんだろ。自業自得ってやつだな」
言い返せなくなったのか黙り込んだ彼女の体をゆっくり離して、小さな両足が地面についた。
「ったく、鈴夏に感謝しろよ」
「え!はっ…!?なんで?」
「お前が率先して行動してただろ」
「いや、あ、なんにもしてないけど…」
説得したのあんたじゃないか。
突然名前を呼ばれて、ボーっと聞いていた二人の会話が頭の中に滲みるように落ちていった。
羨ましいなんて。
嫉妬という言葉は知っている。
それは一度だけ体験した、片思い故のジレンマというやつ。
――…私を見て欲しい
それは、好きな相手に“好きになって欲しい”とそう思うことだとばかり思っていた。
じゃあ今もお腹の辺りで探るように這う感情の正体は?
「ちゃんと、謝れるな?」
「…」
「途中まではついていってやる」
あやすような綺麗な声に押されるように海ちゃんが小さく頷く。
要は、キッカケなのだ。
今日は、誰かに助けられたかもしれない。
人はそうやって後押しされないと勇気がでないことだってあるということを、私はこの学校に来て身にしみて理解した。
そうして、その勇気はしっかりと自分で使わないと。


