生徒会長様の憂鬱



「海ちゃん」



風に消されないように、私は大声で彼女の名前を呼んだ。
驚いたように肩を一瞬震わせ、振り返った瞳は明らかに怯えている。


怒られるのが分かっている、小さな子供のようだ。



近づいてくる私達の距離に耐えられなくなったのか、海ちゃんは意を決したように立ち上がり走り出した。
しかし要冬真の横を通り過ぎた瞬間、ヤツが乱暴に腕を掴んだものだから彼女は宙を浮き、気付けばガッチリと羽交い締めにされている。


いくら幼なじみとは言え、アグレッシブすぎる。



そう思ったが、すぐさま私と葵が頭をよぎったので無かったことにした。



「やだやだ!離してよ!」



「誰が離すかバカか」


「うるさい!なんでよーもぅあたしのことはほっといて!」



「ったくアホか、そうもいかないからここに居るんだろ」




海ちゃんは暫く抵抗していたが、疲れと諦めで静かになった。要冬真はそれを確認してから頭をサラリと撫でて今度は俵担ぎをしたので思わず目をむくと、私の視線に気付いた彼は「これが一番持ちやすい」と真顔で答えた。




「なによぅ…」




弱々しく紡がれる言葉は、木枯らしに消えていく。
ジワジワと潤む瞳は今にも零れそうだが、歯を食いしばってなんとか耐えているようすだ。




「あたしには、慧だけなんだもん」



屈み込んで海ちゃんの顔をのぞき込むと、その淡く揺れる瞳と目が合う。




「ほんとはわかってるの。ワガママだって」



その弱々しい声に、責めたつもりもないのに罪悪感が滲んだ。


「でもすきだから、だれかとなかよくするのはイヤなの」



「うん」




「みてると、くるしいの」





溜まった滴が耐えきれなくなってコンクリートに落ちる。
堰を切ったように零れだした涙を見てギョッとした私を見ていただろう要冬真が鼻で笑った。


笑うな!
泣かれると弱いんだよ私は!




色々言おうと思っていたのに、海ちゃんの涙を見た瞬間全部吹っ飛んでしまった。