午後の授業も終わりに近づいた昼下がり。
なんとなくノートの欄外に落書きをしていると、ブレザーのポケットに入っていた携帯電話が小さく震えたのがわかった。
チカチカ点滅するランプに、私はさり気なく手を起き机の下で画面を開く。
『花櫛さん、屋上におるで』
携帯電話が受信したのはメールだった。
見慣れた活字と関西弁。
宛名を見た瞬間、またお前かよとツッコミたくなったが今は授業中だ。
なんだかんだで協力してくれる右京には感謝しているつもり。
チャイムの音と同時に立ち上がり、私は屋上へ向かうために教室のドアに手を置いた。
「…」
その瞬間刺さるような視線を感じた。
今まで何度も浴びせられたので誰だかすぐ分かる。
というか私を睨み付ける人間なんて一人しかいない。
「一緒に屋上行きません?」
振り向きざまに愛想笑いをしてみれば、ばっちり目線が合った男が無表情でこちらを見ている。
こわっ!
暫く私にガンを垂れていた要冬真は呆れたように立ち上がり、先に教室を出た。
「今度はどこに行くんだ」
「右京が、海ちゃんが屋上に居るって。放課後すぐ逃げちゃうから、どこにいるか分かんないじゃない。今がチャンス」
「そんなこと言ったって、会ってどうすんだ」
「どうするって、とりあえず雪くんとは仲直りしてもらわないとダメじゃない」
「仲直り?」
二人で足早に階段を登り屋上の扉のノブを回す。
「誤解は雪くんに解いてもらわないと意味ないでしょ?だから私達はキッカケを作ってあげないと」
開け放たれた扉から一気に冷気が入り込む。
冷え切ったその場所は寒くなってから来るのは久しい。
辺りを見回すと、隅の方でフェンスに手をかけて空を撫でるように舞う長い栗毛が見えた。


